時雨みち(藤沢周平)
2015/06/01 (月) | カテゴリ:本
藤沢周平著『時雨みち』
はっきりと描いていない結末が柔らかな余韻を産む。
はっきりと描いていない結末が柔らかな余韻を産む。
時雨みち(裏表紙より)
にがい思い出だった。若かったとはいえ、よくあんな残酷な仕打ちができたものだ。出入りする機屋の婿養子に望まれて、新右衛門は一度は断ったものの、身籠もっていたおひさを捨てた。あれから二十余年、彼女はいま、苦界に身を沈めているという……。表題作「時雨みち」はじめ、「滴る汗」「幼い声」「亭主の仲間」等、人生のやるせなさ、男女の心の陰翳を、端正な文体で綴った時代小説。レビュー
田中麗奈主演で映画化された『山桜』の原作【山桜】を含む11編を収録。ほとんどの作品は明確な結末が描かれていないので、人によっては物足りないかも知れない。
しかし予想のつく終わり方であり、むしろはっきり結末を書かないことで、柔らかな余韻を残している。
何度か読み返すと、だんだんとその心地よさが感じられてくるように思う。
中でも気に入っているのは田中麗奈主演で映画化された『山桜』の原作【山桜】
野江は二度の結婚に失敗した。
一度目は夫に先立たれ、二度目は金に執着する家だった。
姑は意地が悪く、夫は野江の前夫を罵る嫌らしい男で、自分から家を出た。
そんな野江の心には、山桜の枝を手折ってくれた一人の男があった。
人生を回り道をしてきた野江だが、やっと辿り着くべき場所を見つけた。
自分の居場所を見つけた喜び、生涯を共にする夫を見つけた嬉しさが溢れている作品だった。